2007.9 合田泰子
うだるような暑さが続く8月ですが、ようやくピークを越えそうな気配が朝晩、肌に感じられる気候になってまいりました。いよいよ、心待ちにしていたワイン向きの時節の到来です。
【新着ワインと試飲会のお知らせ】
今年はその暑さのせいで各地の収穫が早まったとばっちりで、9月の船積み予定が夏前に前倒しとなりました。というわけで、今月は多くのコンテナが同時に入荷しており、お知らせもまた盛り沢山です。注目は、ヴァンサン・デュロイユ・ジャンティアル2005、イヴォン・メトラ2006。ボッカディガッビアは久々の日本市場登場です。そこで、新着ワインと新ヴィンテッジのご案内をかねた年に一度の試飲会を、大阪(9月20日)と東京(10月3日)で開催いたします。現在のラシーヌの全容をご覧いただきたく、大勢の方のご来場をお待ち申し上げております。
【ヴィンテッジ情報】
2007年ヴィンテッジについては、残念ながら朗報はあまり届いていません。春と夏が早くきたため、当初収穫は3-4週間早くなると予想されましたが、6月に入り曇天が続き、気温が朝晩10度を切る日が続きました。おまけに各地で雹害があり、特にアルザスでは被害が大きかったようです。このような状況ですので、ボジョレの信頼できるヴィンテッジ情報は、7月末時点でまだ公表されていません。
7月来日時のティエリー・ピュズラによれば、「雨が多くてベト病が蔓延し、ボルドー液をまいても流れてしまう。けれども、何度も散布すると畑によくないので、あえて手当てをしていない。早く日照りが戻ってほしい」ということでした。こういうやっかいなヴィンテッジにこそ、日ごろの誠実な畑での仕事ぶりが畑の衛生状態を大きく作用します。ジュリアン・クルトワ、ディディエ・バラルと電話で話しましたが、「ベト病やボトリティスなど何の話?」という話ぶりでした。「環境と完全に調和がとれていれば、雨が多くても腐敗果の心配もなく、素晴らしいワインを作ることができる。ビオディナミといっても、よその畑の草や堆肥を運び入れたら環境が壊れる。だから私は、醸造家であるよりも農夫であり続けたい」とは、クロード・クルトワの言葉です。他方、雹害にあうかどうかは運まかせですが、幸いシュレールとピエール・フリックはぎりぎりのところで免れたと聞いています。8月になって太陽が戻ってきたので、これから収穫までの間、好天が続くよう祈りたいと思います。
なおフランス食品振興会から、7月1日時点における2007年ヴィンテッジ情報が届いています。弊社ホームページに掲載しますので、ご覧ください。
まだまだ、残暑が厳しい毎日ですが、十分に休養をとり、秋に向けてエネルギーをためたいと思っています。皆様もどうぞお疲れが出ませんように。
【ボッカディガッビア再縁】
ボッカディガッビアは、前社ル・テロワールでご紹介させていただきました。どのワインをとってみても、表面的でないしっかりとした味わいに満ちていました。たとえば、大変バランスがよく、飲み心地のよい[ロッソ・ピチェーノ]は、イタリア・レストランでの食事の友としてとても親しまれていました。[サルタピッキオ]や[アクロンテ]もイタリアらしい個性があり、最近も[サルタピッキオ]の古いヴィンテッジをレストランで見つけ、懐かしさのあまり頼んでみました。大変美しく熟成した落ち着いた味わいに感激し、あらためて確かな腕前を確認しました。「ラシーヌでは、扱わないのですか」と、いろいろな方からお問い合わせいただいておりましたが、気になりながらも日がたってしまいました。
今年の2月、オウナーで旧知の間柄であるエルヴィオ・アレッサンドリから、FOODEXに出展する旨の連絡がありました。自分の目で日本のマーケットを見、自分のワインが日本でどのように評価されているかを確かめたかったから参加した、とのことでした。あいにく出張ですれ違いになってしまい、エルヴィオに会ったのは最終日でした。「一番驚いたのは、ブースの間をまわっている人たちのほとんどが、『あっ、ボッカディガッビアだ』と立ちどまり、懐かしそうにテイスティングをしてくださったこと。かつて扱っていて何年のどのワインが好きだったなど、暖かくて確かなコメントをもらい、とても嬉しかった。短い滞在だったけれど、毎日とても愉快だった」と、エルヴィオ。初来日を楽しんでいた様子で、その夜は六本木の焼き鳥バーで歓談に明け暮れました。
ワイナリーは小規模で、イタリアはむろんのことヨーロッパとアメリカで、すでに十分なマーケットに恵まれていました。なのに、わざわざ日本を訪れて何かを感じ取ろうとする生来の好奇心と、誠実で気取らない人柄に、あらためて心を動かされました。ボローニャ大学で経済学を修めたエルヴィオは、目の動きと輝きからして、敏活な知性とユーモアの持ち主であることがうかがえます。はたして、彼のワインには派手な押しつけがましさや修飾が皆無で、軽やかさと落ち着いた雰囲気がともに伝わってきます。成熟に向かいつつある日本のワイン市場に、このようなタイプの「大人のワイン」があって欲しい――と痛感しましたので、量はともかくとしてラシーヌでご紹介させていただこうと申し出ました。エルヴィオもまた、照れながら嬉しそうな風情を隠さず、再縁を喜びあった次第です。
合田 泰子