『ラシーヌ便り』no. 24

2007.7  合田泰子

 本格的な暑さが到来しはじめましたが、お変わりありませんか。
「梅雨に入り、晴れ間が恋しいですね」 とこの間まで書くつもりでいましたが、雨乞いをしたくなるような毎日です。7月のお便りは、「雨に唄えば」という ミュージカルばりのタイトルで、考えていました。先日のこと、雨の夜に(といっても、濡れながらではなく)ワインを飲んでいて、「あっ、ワインが歌っている。旋律が余韻のなかから聞こえてくる」と思ったからです。ワインは、シュレールの「ゲヴュルツトラミネール2004」、「魔笛」第二幕の「三人の童子」 が歌う調べのような印象で、美しい旋律がゆったりと静かに繰り返されているように思いました。最初は驚きましたが、時間とともに「あー、歌が聞こえる」 という幸せなひと時が過ごせました。ブルーノ・シュレールが造ったワインを飲むときいつも思うことですが、彼のワインは飲み物というより「人」のような気がします。「人格を感じる」などというと、近寄りがたい感じがしますが、決してそうではなく、かといって気軽な友達というわけでもなく、あるときはささやき、あるときは優しくそっと隣りに寄りそってくれ、唄を歌うこともあれば、また陽気に大騒ぎしたり…… どちらにしても、人間だとしたら、たいへん魅力的な存在なこと間違いありません。雨の日はどうしても、ワインの味わいが劣りがちになりますが、ならば梅雨の晴れ間にシュレールをあけてください。きっと素敵な 歌が聞こえてくるでしょう。

お知らせ

1)年来の恋人、 Edoaldo Valentini ヴァレンティーニ、ついに。

 かつて塚原正章は、『料理王国』(1996年6月号)に寄せた記事のなかで、エドアルド・ヴァレンティーニのワインについて、イタリアを代表する「黄金の 七人」(ゴールデン・セブン)が造るもっともイタリア的な作品のひとつとして、最大限の敬意を表しつつ、紹介したことがあります。
 赤ワインのモンテプルチアーノ・ダブルッツォについては、「広大な畑から選び抜いたモンテプルチャーノ種のブドウから造る、おそらくはイタリア随一の赤。神韻縹渺とした味わいは、まさに神技」、白ワインのトレッビアーノ・ダブルッツォについては、「アブルッツォの圧巻。収量の抑制と自然な造りが、人為的な飾りのない、深い内面性の白をうむ」とまで絶賛いたしましたが、私たちの考え方は今でも変わりありません。ヴァレンティーニこそ、私たちの長いワイン探索の旅程で、「偉大な造り手が偉大なワインを生む」ということを最初に教えてくれた、貴重な存在でした。残念ながら、エドアルド・ヴァレンティーニ氏は 昨年亡くなりましたが、家業は長男夫婦によって立派に引き継がれています。
 そのヴァレンティーニのワインを、ついに当社で今年度のリリース(11月)から少量ながらご紹介させていただくことになりました。ささやかなインポーターとして、これほどの幸せはありません。
詳しくは、次号塚原のイタリア便りを楽しみにお待ちください。

2)Maillartマイヤール氏、来日

 突然ですが、シャンパーニュのNicolas Maillartニコラ・マイヤールが来日します。2003年にニコラに代替わりしたレコルタン・マニピュランですが、昨年からニコラ流の醸造に変わったキュヴェが、徐々にリリースされてきています。
 7月30日月曜2時から5時、ラシーヌのオフィスでニコラを迎えて試飲会をいたします。「自分の世代になってからのシャンパーニュを是非知っていいただきたい」と願い、多くのワイン界の方々とお話できることを楽しみにやってきます。 初めての来日ゆえ、大いに張り切り、「たくさん写真を用意していく」とのこと。プロジェクターを使って、詳しい説明があります。本人から直接シャンパーニュ造りについての考え方を聞ける良い機会ですので、是非ご出席ください。

3)Yvon Metrasイヴォン・メトラ、ふたたび。

 昨年は、相続の問題のため、2005年という素晴らしいヴィンテッジが残念ながら入荷いたしませんでした。 いろいろと噂をお聞きのことと思いますが、イヴォンがこれからもフルーリーでワインを造り続けると聞き、ほっとしています。秋にはこれまでどおり、2006年の《ボジョレ》、 《フルーリー》と新たに《フルーリー・キュヴェ・プランタン》が入荷します。そして、驚いたことに、《ムーラン・ナヴァン》に小さな畑を買ったといううれしいお知らせです。あの素敵なフルーリーを造ってきたイヴォンですから、さぞ見事なムーラン・ナヴァンが生まれたことと期待を大きく待っているところです。11月終わりに入荷の予定です。

4)新着便。

 今月は、フランスとイタリアからコンテナ便がそれぞれ入荷いたします。 オーレリアン・ヴェルデの2005オート・コート・ド・ニュイご期待ください。これぞまさしく、2005年のスタンダード・ピノ・ノワールを代表する一本に間違いありません。イタリアは、ボルゴ・デル・ティリオ2005、ベナンティの新ヴィンテッジが入荷です。動きの早い商品が多いため、ご希望の方はお急ぎください。

 なお、イタリアに出張していました塚原が、畑をめぐり歩いて今朝帰国しました。バローロのカンヌビでは、上半身裸の短パン姿で畑仕事をしていた農作業夫に、タクシーの運転手がルチアーノ・サンドローネへの道を尋ねたら、なんと本人だったとか。午前中とはいえ6月半ば、急斜面にある畑はすでに炎天下。さぞかし厳しい仕事とは思いますが、60歳を過ぎた名醸造家が今なお自ら一人で畑仕事に励む姿に、感銘を受けた由です。まさしく、ワインは畑で出来るのですね。

合田 泰子

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