『ラシーヌ便り』no. 22

2007.5  合田泰子

 4月は恒例のヴィニタリーに行き、あわせて3週間ばかり海外出張しておりましたので、帰国早々のお便りです。先日の「Wine Tokyo」には、雨の中を多くの方々にご来場いただき、ありがとうございます。今年の総来場者は1500名とか。大きな催しとしてすっかり定着しましたね。会期がいつも出張と重なるため不義理をしておりましたが、今回はようやく参加できました。ふだんお目にかかれない方々もお越しいただき、お話ができましたので、私にとっても実り多い催しになりました。有難うございます。

 さて、出張中は、急なオファーがあって予定が変わるのが常です。今後もお取引を続けたい造り手であるにもかかわらず、こちらの望む仕上がりでない場合の厄介な話し合いもありますが、明確なヴィジョンを持って造り手と積極的に話し合いを重ねたりもする毎日の連続です。楽しくも気遣いの多い、それでも幸せな仕事に、私は感謝しています。

 出張に行くたびに思うのですが、「人生はドラマ」。それぞれの人生にそれぞれのドラマがありますが、長く造り手とおつきあいしていると、自然に彼らの日常を知るようになります。彼らの恋多き人生には別れがつきもののようで、個性の強い人たちですから当然かもしれませんが、まるで映画のような人生がかいま見られます。
 また、ワインの点からみれば、代が変わるごとに大きな転機が訪れ、良くなる場合もあればその逆もあり、変わらず素晴らしいワインを造る跡取りに恵まれる場合もあります。ブルゴーニュのジャン・ガロデの場合は、ご子息が企業家として成功を収めたため跡とりがおらず、2006年ヴィンテージが最後になってしまいます。ジャンのワインを私が最初にご紹介したのは1992年のことで、ワインはポマール1級のレ・シャルモ1990。ニュイのワインを思わせるような、澄んだ果実味の美しい味わいを今も懐かしく思い出します。どのようなヴィンテッジにも、非の打ちどころのないワインを造リ続ける造り手でした。若いうちから美味でありながら見事に熟成もする彼のワインは、エキスのつまった控えめなスタイルが持ち味。熟した果実味が調和のとれた味わいとなって口中に拡がる、いかにもブルゴーニュらしい心なごむ風味のワインで、日本でも多くのファンに恵まれてきました。ある長年のファンの方は「新ブルゴーニュが話題になる今、クラシックなブルゴーニュらしいブルゴーニュがなくなるのは、本当にさびしい」とおっしゃっていました。変わらず何代にもわたってワイン造りを営み、素晴らしいワインを世に問い続けることは、本当に大変なことですね。

 さて、ヴィニタリーの後、トスカーナをまわりました。一番の目的は、イル・パラッツィーノでのスペシャル・キュヴェの熟成確認です。「古典的なスタイルのサンジョヴェーゼには大樽が似合うので、ラシーヌ用に大樽熟成をしてほしい」と求め続けてきましたが、念願の大樽熟成キュヴェがいよいよ実現します。2006年ヴィンテージの収穫前から準備を始めましたが、幸運にも06年は、遠からぬブルネッロ・ディ・モンタルチーノのさる大家によれば「完璧なヴィンテージ。ブドウは健康そのもので、トリエの必要がまったくなかった」そうです。
 さて、イル・パラッツィーノには、
グロッソ・サネーゼ:大樽発酵、新樽100%熟成
レ・ピエーヴェ:ステンレス発酵。一部だけが新樽熟成で、大部分は古い小樽で熟成
アルジェニーナ:コンクリートタンク発酵。大樽熟成(一部は古い小樽熟成
カシーナ・ジラソーレ:コンクリートタンク発酵。ステンレスタンク熟成
の4つのワインがあります。
グロッソ・サネーゼ (2006年から、ラシーヌ・キュヴェのみ大樽発酵・大樽熟成)
レ・ピエーヴェ (2006年から、ラシーヌ・キュヴェのみ大樽熟成)
アルジェニーナ(2005年からすべてコンクリートタンク発酵・大樽熟成)
カシーナ・ジラソーレ(2005年から、すべてコンクリートタンク発酵・大樽熟成)

 数年前のこと、「キアンティ・クラシコ地区南部にあるガイオーレ特有の肉付きのよいキャラクターには、大樽熟成のほうが伸びやかな味わいが生まれるから、適しているのではないか?ぜひ、ラシーヌ用に大樽熟成でワインを仕上げて欲しい」と、私たちは問いかけました。それに対してサンドロは、「僕たちも本当は、大樽熟成の上級キュヴェを造りたかったんだ」といって、快諾してくれました。もともと、イル・パラッツィーノの畑は、ガイオーレのなかでも一つ上のク リュと認められている特別な区画にあり、今までも卓越したワインを生み出してきました。現状に甘んじることなく、常にそれ以上を目指し、熱意を持って仕事に取り組むサンドロの柔軟な考え方には、常に敬意を払ってきました。フィネスと温和な優しさをそなえた、芳醇な味わいのイル・パラッツィーノのワインが、いっそう古典的な表情を宿し、新たな魅力をみせてくれるのを、今から楽しみにしています。(2008年秋入荷予定)

 出張のご報告は、まだまだ尽きませんが、次号に続けたいと思います。新たにお取引が決まった素敵なお知らせを、楽しみにお待ちください。

合田 泰子

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