《合田泰子のフランス便り: シャンパーニュ》

2006.11  合田泰子

 秋も深まってまいりました。今年の中秋の名月は、本当に美しかったですね。東京では雨のため満月の翌日の月を見ることになりましたが、この季節の美しさは別格だと感激しながら、しばし静かな時をすごすことができました。このような季節は、心にしみいるワインをしみじみと味い楽しみたいところです。

 さて、ラシーヌのRMシャンパーニュ・セレクションの造り手として、新らたにニコラ・マイヤール【ミシェル・マイヤール】とブノワ・タルラン【シャンパーニュ・タルラン】が加わります。ともにシャンパーニュ地方の歴史を飾る栽培家の新世代に属しており、代替わりとともにワインのスタイルを一新させた、有能きわまる若手です。

 ところで、私たちが考えるクオリティ・シャンパーニュを再説させていただくと、
 「ワインとしての基本的な資質と、シャンパーニュとしての美質を、ともにそなえていることが、クオリティ・シャンパーニュの必要条件です。〈シャンパー ニュの美質〉とは、しとやかな美しさ、エレガンスと気品ある味わいではないでしょうか。そういう考え方に立って、次のようなRMシャンパーニュ生産者の探索をつづけてきました。
1. アンセルム・セロスに学び、彼の考え方を創造的に継承・実践している自然派の生産者
2. アラン・ロベールをはじめとする、高水準で個性的なクラシック・スタイルのシャンパーニュ生産者

 私ごとですが、1990年に【アラン・ロベール】と、【エグリ・ウリエ】(サンリバティー株式会社での販売を通じて)とを日本で初めてご紹介し、早くも 16年になります。当時、【アラン・ロベール】は1970年代のトラディション、レゼルヴ、ヴュー・ドゼがまだリリースされていました。また【エグリ・ウリエ】はまったく無名ながら、アンボネの可能性を信じて選んでまいりましたが、近年のクオリティは素晴らしく、また評価の高さにも驚かされます。
 そのような歩みのなかで、現在ラシーヌでは、ジェローム・プレヴォー(グー村)、ヴエット・エ・ソルベ(オーブ)、オリヴィエ・コラン(コート・ド・ブラン、2007年秋よりリリース)、リシャール・シュルラン(オーブ)、ジョゼ・ミシェル(ムッシー村)、ダヴィッド・レクラパール(トレパイユ)、チュルジー(ル・メニル・シュル・オジェ)と、扱っているシャンパーニュ・セレクションも様々な地域と村に広がってきました。 

 さて、今回ご紹介いたします【マイヤール】と【タルラン】の最大の特徴は、ともにヴィーニュ・フランセーズ100%のキュヴェを作っていることです。ご存知のように、ラシーヌではイタリア・スペイン・ロワール各地の、ヴィーニュ・フランセーズから生まれる傑出したワインをご紹介していますが、たとえ若樹であって もヴィーニュ・フランセーズが生み出す透明感・深遠な奥深さと個性は、いかなる樹齢の高い樹もかないません。
 このようなキュヴェを産みだす新世代のシャンパーニュ・メゾンの二人の跡取りは、代替わりするとともに、従来の諸キュヴェを一新する高レヴェルのワインに様変わりさせました。当然のことながら、①栽培は有機栽培に向けて努力し(病害対策として最低限の農薬を使用するので正確にはビオロジックではない)、②セラーでは重力移動方式で作業し、③プレスティージュ・キュヴェには培養酵母を使わず、④樽発酵・樽熟成で醸造し、⑤マロラクティック発酵をしない、という具合で、クオリティ・ シャンパーニュに欠かせない昔ながらの伝統的な原則を守っています。
 ニコラ・マイヤールは、1958年と1975年に植えられたピノ・ノワールをもとにして、代替わり直後の2003年から樽発酵・樽熟成によって、キュヴェ・ヴィーニュ・フランセーズを造りはじめました。一方ブノワ・タルランも、父の時代は混醸していた樹齢40年のシャルドネ果を、1999年から樽発酵・樽熟成によって「ラ・ヴィーニュ・ダンタン」という名前で造っています。 
 ブノワ・タルランと私との交流は、まだ彼が研修中の1993年にさかのぼりますが、さまざまな話や議論をしてまいりました。長いあいだ私は「キュヴェ・ルイ」だけをご紹介してきましたが、ここ数年に長足の進歩を遂げた全ラインのクオリティ向上には、驚くとともに率直に賛辞を呈したいと思います。


【シャンパーニュ・タルラン】
《位置づけ》 
 タルラン家は、家族経営のまま12代にわたってシャンパーニュ地方でブドウ栽培とワイン造りに携わり続ける、歴史的な存在です。が、その歴史を現在まで辿ってみれば、まさにシャンパーニュの歩んできた道そのものであることがわかります。初代ピエール・タルランがエーヌ地方のグランでブドウ栽培を開始したのが1687年。以後ブドウ栽培を続け、4代目ルイ・タルランが現在のウイィ(エペルネの西10km)に居を移し、7代目アレクシス・テオドール・タルランが赤・白のワインを造りはじめ、パリのキャバレに売っていました。次の8代目ルイ・アドリアン・タルランは、ウイィ村長を務めるかたわら、シャンパーニュ革命にのりだし、1928年にはじめて〈キュヴェ・タルラン〉製のシャンパーニュ「カルト・ブランシュ」を世に送り出し、フランスの内外で成功をおさめます。すなわち、レコルタン・マニピュランとしての出発です。9,10代目にあたる二人のジョルジュは、第2次大戦による畑の荒廃を立て直し、現在の隆盛の基礎をつくりました。11代目で、現当主であるジャン・マリ・タルランは、アヴィーズのワイン学校で得た近代醸造学の知識を生かして、以後25年間の今日に至るまでタルラン社全体の経営にあたりながら、シャンパーニュ地方を代表する環境保護運動のリーダーとして、INAOで活躍しています。1976年生まれで12代目にあたる若きブノワ・タルランは、OIV(ブドウ栽培とワイン醸造の団結と向上をはかる国際団体)で研修して視野を広げたあと、同時代の新しいワイン潮流にも敏感に反応しながら、若者の大胆なセンスで、新らたにさまざまな刺戟的なキュヴェを造りだし、すでに先鋭なワイン愛好家たちの熱烈な注目を集めています。
 すなわち、タルラン家はシャンパーニュの良き伝統に根ざしながら、時代の問題意識を先取りして自己革新をとげる勇気にあふれる家族企業であり、常に注目に値するシャンパーニュを造り続けているのです。

《商品説明》
1)【シャンパーニュ・タルラン】
Brut Zero
ブリュット・ゼロ
(シャルドネ、ピノ・ムニエ、ピノ・ノワール 各3分の1ずつ
2003(ステンレス発酵、熟成)を主体に、リザーヴワイン(樽発酵・樽熟成)、ドザージュ・ゼロ。

Brut Rose
ブリュット・ロゼ (シャルドネ85%、ピノ・ノワール15%)
2003(ステンレス発酵・熟成)を主体に、リザーヴワイン(樽発酵・樽熟成)
ドザージュ・6.2g/リットル

Brut Rose Zero
ブリュット・ロゼ・ゼロ (シャルドネ85%、ピノ・ノワール15%)
2003(ステンレス発酵・熟成)を主体に、リザーヴワイン(樽発酵・樽熟成)、ドザージュ・ゼロ

Cuvee Louis
キュヴェ・ルイ (ピノ・ノワール50%、シャルドネ50%)
1997-1996のブレンド、新樽発酵・新樽熟成、マロラクティック発酵はしない。

La Vigne d'Antan Extra Brut
ラ・ヴィーニュ・ダンタン 
(接木をしないシャルドネ 1999 80%、1998 20%) 平均樹齢43年
樽発酵・樽熟成、マロラクティック発酵をしない。ドザージュは4.5g/リットル

La Vigne d'Or 1999 Extra Brut
ラ・ヴィーニュ・ドール (ピノ・ムニエ 100%) 平均樹齢51年
樽発酵・樽熟成、ドザージュ4.5g/リットル
ヴァレ・ド・ラ・マルヌの単一畑のピノ・ムニエ100%から造られる。この地でのピノ・ムニエの力を問うための、ブノワの挑戦ともいうべきキュヴェ。(24本のみ入荷)


2)【ミシェル・マイヤール】
 マイヤール家は、家族経営により1720年よりエケイユ村でブドウ栽培とワイン造りに携わり続ける、この村でもっとも古い一族です。が、シャンパーニュ 造りの歴史は比較的浅く、ミシェル・マイヤールが同名のRMを1965年に設立しました。1998年にボルドー大学で地質の分析・改善と醸造学を修めたニコラ・マイヤールが加わり、2000年の収穫からニコラが醸造をするようになりました。

 一昨年スペインの【ドミニオ・ディ・アタウタ】の紹介をつうじて、私はニコラと知り合いました。ニコラは、ボルドー大学時代にスペインのリッカルド・パラ シオス、アタウタの醸造家フィリップ・スルデ、ソミュールの造り手フーコ家の息子と、同じアパートに住んでいました。ルーム・メイトはいずれも現在ビオディナミで素晴らしいワインを造る醸造家で、互いに深く影響しあったことは想像に足ります。
 2003年に代替わりをすると、栽培・醸造の両面で根本的に方針を変え、テロワールごとに発酵させるが、その際に野生酵母で樽発酵させ、樽熟成をさせる方式をとって、個性と高いクオリティを備えたシャンパーニュ造りに邁進しはじめました。ラシーヌでは、ニコラの2003年が主体となる2006度のリリース分からの輸入に向け、話し合いを重ねてきました。

《商品説明》
概要:
*畑:8.5ha モンターニュ・ド・ランスにあるプルミエ・クリュ(エケイユ3ha、ヴィレール・アレラン4.5ha、ブズィ1ha)
*品種:ピノ・ノワール75%(ヴィーニュ・フランセーズ5%)、シャルドネ25% 
*栽培:リュット・レゾネ 

Brut 1er Cru
ブリュット プルミエ・クリュ (ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%)
’99、’02、’03 のブレンドである03は、酸の少ない年だが、当社では良い結果が生まれた。タンク発酵・タンク熟成で、今のところ発酵初期に培養酵母を使用。マロラクティック発酵。

Brut Rose 1er Cru
ブリュット・ロゼ プルミエ・クリュ (ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%)
02と03のブレンド。タンク発酵・タンク熟成でマロラクティック発酵。

Brut Reserve 2000 1er Cru
ブリュット・レゼルブ プルミエ・クリュ (ピノ・ノワール45%、シャルドネ55%)
タンク発酵・タンク熟成でマロラクティック発酵。

Brut Blanc de Blancs 2000 1er Cru
ブリュット・ブラン・ド・ブラン プルミエ・クリュ (シャルドネ)
野生酵母で樽発酵・樽熟成で、マロラクティック発酵せず。試験的に2樽のみ造られた。
なお、キュヴェ・ヴィーニュ・フランセーズは2007年秋にリリース予定。

合田 泰子

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