『ラシーヌ便り』no. 10

2006.5  合田泰子

 4月は3週間ばかり海外出張しておりましたので、帰国早々のお便りです。
先日の「Wine Tokyo」には多くの方々にご来場いただき、ありがとうございます。ソペクサなどの催しですと、いつもワインを持ち帰るのですが、ワイン東京では早々に試飲用ワインがなくなり、スタッフも嬉しい悲鳴をあげていました。ありがとうございました。
 さて、今月もフランスから3コンテナ入荷して盛りだくさんな内容となりますが、ご容赦ください。


[A] 5月15日からのリリース分

1)ロゼ・ダンジュール新世代
 「ロゼ・ダンジュール新世代」については3月にお知らせいたしましたが、2005年にマルク・アンジェリは「ロゼ・ダンジュール」を商標に登録しました。一般的な商標登録の目的と異なり、マルクは商標を独占せず、ワイン哲学を共有する仲間に声をかけて醸造方法を伝えた結果、11人の造り手が各自「ロ ゼ・ダンジュール」を造りました。
 2005年12月6日、アンジェに近いレストランで、ビン詰めしたばかりの、あるいは、タンクからサンプルを詰めた「ロゼ・ダンジュール」を、互いに審査する会が催されました。審査会は造り手11人以外に、『ルージュ・エ・ブラン』の編集者サロン・ドゥリジュリ、フランソワ・モレル、ヴァン・ナチュールを専門に扱うカヴィストほかワイン関係者6名が出席し、愛情を持って互いの意見を交換しました。私もその仲間に加わりました。
 3月初めにマルクから連絡があり、「ロゼ・ダンジュール」を使用することに異論がおき、「意味のない議論に時間を費やすくらいなら、一分でも長く畑に出たほうがましだ。新しい名称を考えよう」ということになり、私たちにも問い合わせがきました。当社からは“Rose d'Ame 魂のロゼ”、“Rose d'Angevin アンジュ人のロゼ”、“Rose en jeu 冗談ロゼ”などを提案しましたら、大笑いになりました。
 紆余曲折を経て、もとの「ロゼ・ダンジュール」におちつき、ラシーヌには私の選んだ次の4人のロゼが到着いたしました。ディディエ・シャッファルドン、 ロラン・エルベル、ダヴィッド・フランソワ/シャトー・パッサヴァン、ブルーノ・セルジャンで、いずれも才能豊かなアンジュ地区の新世代です。

***

「ロゼ・ダンジュール2005について」 2005年11月 マルク・アンジェリ記 
 「ロゼ・ダンジュ」という用語の使用に関し、わが同業者と役所の保守主義に直面して、おおいなる憤りを覚えた。力づくで従わせようとするやり方には吐き気を催したので、この自作ワイン(および、状況が変わらない限り、おそらく他のすべての自作ワイン)には、ニ度とAOCの認証を請求する手続きをしまい、 と決意した。逆に、この機会を利用して、「ロゼ・ダンジュール」の商標のまわりに、私のように糖度の高いブドウからロゼ・モワルーをつくるゲリラ仲間をつくるという、実に魅力的な考えが浮かんだ。
 この商標を使う際の約束ごとは、単純明快で、まず品種に制限をもうけない。唯一守るべきことは、レストラン人/愛好家/インポーターから成る審査委員会を設け、仲間の造ったワインを試飲して「ロゼ・ダンジュール」にふさわしいか否か判定してもらい、その結論を受け入れることである。審査の最終的な基準は、審査用ワインが委員会のメンバーに与える「感覚」と「味覚」だけ。この方式は、ひとえに本来あるべきAOC審査方式に戻そうというだけであって、それ 以上でも以下でもない。ありていにいえば、AOC審査方式はいっきに堕落し、自己満足した鑑定者にすぎないワイン生産者自身が、自動的に彼らの生産物にAOCの認可を与えるだけの機構に、長らく成り下がっていたのである。私と志をともにする仲間は拡がり、2005年ヴィンテッジに「ロゼ・ダンジュール」を志願する生産者(いうまでもなく全員ビオの実践者)は、いまや15名に達している。


2)ドメーヌ・ド・ランセストラ(シリル・アロンゾ)
 魅惑の「ロゼ・ペティヤン・ナチュレル」のリリース後、大きな反響をいただいていますが、シリルからの第二弾をご案内します。ドメーヌ・ド・ランセストラには二つのワインがあります。一つはジェラール・ヴァレットの古いヴィンテージをネゴシアンとして飲みごろをみながら順にリリースしたもの。二番目はモルゴン村の買いブドウで造るロゼ・ペティヤン・ナチュレルのように、買いブドウで造ったワインです。今回は、自ら醸造した二つのワインとヴァレットが醸造 した二つのワインが入荷しました。

○マコン・シャントレ2002
 マコネ地区で長らくヴァン・ナチュールを造ってきた「ジェラール・ヴァレット」の畑の一角に「フュメ」という老人が1.25ha(ACマコン)の畑を所有しています。長らくヴァレットが栽培/醸造してきましたが、2002年からシリルが醸造するようになりました。シリルの考えは、熟成した味わいのワインを造ることです。「美食の都」リヨンを控えた南部ブルゴーニュのシャントレ村で、彼の両親はレストラン「ラ・ターブル・ド・シャントレ」を営み、家族経営のあたたかなサーヴィスと繊細さと力強さを備えた見事な料理で多くのファンを魅了しています。フランスの多くのグラン・メゾンは、まだまだ保守的なワインの品揃えですが、「ラ・ターブル・ド・シャントレ」のワインリストは、古いボルドー・グラン・クリュ・クラッセやブルゴーニュの代表的な造り手のワインが並ぶとはいえ、きらめくようなえり抜きのヴァン・ナチュールがリストの大部分を占めています。不安定さが気になる造り手でも、最上の味わいのワインだけが厳選されていますから、非ヴァン・ナチュール派のワイン関係者もその自由な感性で選ばれたリストには驚嘆しています。このような両親のもとで育ち、またワイン商としてスイスで活躍していたアロンゾが、一般の醸造家とは異なった視点のワイン観を持ったことは当然な成り行きです。
 〈シャルドネは木樽発酵させないと最上の味わいが引き出せない〉という信念にのっとり、古い木樽で発酵させ、マロラクティック発酵後タンクに移して 36ヶ月熟成。2006年2月にビン詰めしました。彼の流儀で醸造した場合、「熟成が短いと味わいが単純で、酸化した味わいだけが強調される。フレッシュさを備えた複雑でミネラルな味わいは、長期熟成によって得られる」と考えています。マコネ地区の名人と言われるどの造り手のワインとも全く傾向の異なった、 「シリル・アロンゾのワイン観」が味わいの中に見事に表現されています。

○VDTルージュ「キュヴェ・コホカ」 レニエ村産の有機農法栽培によるガメで造られた赤ワイン第一弾。

○マコン・シャントレ・アンティーク1997
○プイィ・フュイッセ1998
 昨年日本市場に、ジェラール・ヴァレットが醸造したマコン・シャントレ1998が輸入されました。1997年は酸が高いため、ビン熟成を1年待ってリ リースされました。今後、マコン・シャントレは今年7月にビン詰めされる1999年、その次に2000年がリリースされる予定です。プイィ・フュイッセ 1998も同じくヴァレットが醸造し、飲み頃を迎えた極上のプイィ・フュイッセです。

3)ドメーヌ・グラン・キュルレ(ジャン・マルク・ブリニョ)第二弾
 ピエール・オヴェルノワ引退後、真正なジュラワインの味わいの後継者として期待されるジャン・マルク・ブリニョ。昨年入荷しましたトルソはようやく初期の還元臭から解放され、感動的な味わいに仕上がっています。昨年のディーヴ・ブテイユで最も話題になり、すぐさま飛んでいって取引をさせていただくようになったのですが、他の造り手と話しているときも、彼のことは「才能高き造り手」としてよく話題になります。
 2004年のジュラは開花期間が長期にわたったためブドウの成熟に時間がかかり、房ごとにまちまちに熟し、収穫に5週間もかかりました。収穫中もにわか雨にたびたび見舞われ、トリエで収穫の1/4を捨てました。このような収穫状況の結果、異なったいくつもの小さなキュヴェを造ることになりました。畑のあるモランボス村はボーヌの東100km、アルボワの西北20kmに位置し、ジュラ最上の畑と言われています。プピラン村にあるピエール・オヴェルノワの畑は粘土質ですが、ジャン・マルクの畑は泥灰土なので、サヴァニャンに独特の風味をもたらす産膜酵母が自然に醸造初期から現れるといわれています。そのため、フレッシュな味わいのなかに、ジュラ特有の香りがかすかに感じられる絶妙な味わいのサヴァニャンが生まれる次第です。一般にジュラでは、サヴァニャンはかなり酸化させて作るものと決まっていますが、彼のサヴァニャンは、まるでティエリー・ピュズラ製ヴーヴレのような印象です。
 本年4月22日にサヴォワのフランソワ・グリニャン宅で、10人の造り手(ラファエル・バルトゥッチ、アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール、ジャン・ フォワイヤール、マゼル等)が集う、サロンを兼ねたお祭りがあり、私も出席いたしました。リヨン近郊のワイン専門店やレストラン関係者が多く来ていましたが、ジャン・マルクのワインは大変よく売れていました。

4〉シャトー・サンタンヌ
 フランスにおける自然派の系譜をたどっていくと、最終的にたどりつくのがシャトー・サンタンヌ。デュテイユ・ド・ラ・ロシェール家はジュール・ショヴェの教えを最も早く取り入れた造り手で、ドメーヌの歴史は16世紀にさかのぼります。「可能な限り自然な醸造でつくられ、すべてのバンドールのなかで最もフィネスがあるエレガントなスタイル」とは、ジャーク・ネオポールの言です。芳醇な果実味と、複雑で奥行きのあるブケにあふれ、テクスチュアはやわらかくてしなやか。 後継者フランソワーズによる3年目のヴィンテッジの入荷です。

5)最後に、久々のカオール/コッス・メゾヌーヴのご案内です。2001のラ・ファージュがあまりに素晴らしかったので、前回のコンバルは次回に見送って、一つ上のキュヴェを仕入れました。堂々としたうまみにあふれていて、今回のイチオシです。

[B] 5月22日にリリースのコンテナにも、お勧めが満載です。

1)お待ちかねのヴァンサン・デュロイユ・ジャンティアル。
 19歳でワイン造りを始めるや「ベイビー・モンラシェ」と大人気になった「リュリー・ブラン」。今ではヨーロッパ内の星付きレストランのシェアーが多く、輸出量は以前より少なくなっていますので、お早めにご注文願います。

2)ラシーヌ初入荷のオーストリアワインであるガイヤーホフが、ようやく到着します。
 長年様々なサロンでオーストリアのワインを味わってきましたが、オーストリア産で私が初めて心を動かされた、会心のラシーヌ・セレクションです。

3)最後に、エリック・フォレの新ヴィンテッジ。
 実は、2004年は難しい年なので、マコネとしては高額なエリックのワインは仕入れ数を落しました。ところが、先週エリックを訪ね、2004と樽からの2005をテイスティングして驚愕し、わずかに残っていたワインを追加発注しました。ヴェルジッソン村は、マコネのグラン・クリュともいうべきシャルドネの理想地で底知れぬ可能性を持ったクリュであることは、たびたびお伝えしてまいりました。今までも優れたワインであったことはご同意いただけると思います が、2004と2005は新たな境地を開いたともいうべきワインです。まず華やかさ、次に洗練されたピュアな味わいに隠された凝縮した味わいが現れます。今回出張中のハイライトともいうべきで、その前日までに味わったコート・ドールの諸ワインが彼方に飛び去ってしまいました。思わず、シレックスや、華やかで上品な白い花、あるいはアフターのなかにかすかなノワゼットを感じ、合わせる料理が次々に思い浮かんできます。レストランの方に特におすすめしたい1 本です。

合田 泰子

▲ページのトップへ

トップ > ライブラリー > 合田泰子のラシーヌ便りno 10