合田 玲英のフィールド・ノート

2014.2    合田玲英

1.《 スクラヴォス訪問 》

 2013年、ギリシャのケファロニア島にあるスクラヴォスワイナリーでは、春先の寒さにより収量は(フランスや、イタリアほどではないけれども)少ないですが、夏の間はカラッと晴れ、雨が適度に降り、質の高いブドウが実りました。ツァウスィ(モナンベラス)とモスカテーラ(エフラノールに70%ブレンド)をビオの畑からのブドウと、それ以外の買いブドウを別々に醸造しました。発酵はほとんど終わっていて、試飲してみると違いは歴然としていました。ビオの畑の方は、香りが一層たっていて、モスカテーラなどは頭がくらくらするほどで、香りと酸味に大きな違いを感じました。手入れの違いからくる、ブドウの品質の違いがはっきりと感じられます。もし醸造が問題なく進めば、そのまま別々に瓶詰するそうです。

 今年は新しいセラーを建設予定で、それに合わせて、当主のヴラディスが考えるような設備を整える予定です。2014年の醸造に間にあうかどうかは分かりませんが、新しいセラーはヴラディスの念願であり、自然な方法でワインを造りつつ更に品質を高めるためにはどうしても必要でした。試飲会などでフランスへ行くとヴラディスは、来場者が”ヴァン・ナチュールということに興味はあっても、ワインの質自体への関心が薄いと感じるそうです。「品質の高いものを造り続けていかなければ、”ビオ”であるということや、ギリシャワインであるということで一時流行っても、やがて興味を持たれなくなってしまうだろう。」このように考えるヴラディスにとって、例えば、外気温が35度を超す中(2013年は8月15日から約一か月間の収穫でした)密閉しきれないセラーで、亜硫酸を添加せずに発酵させることは不可能でした。新しいセラー完成後に造られるワインがどのように変化するかとても楽しみです。
 追伸:本年1月27日にケファロニア島は強震に見舞われました。さいわい一家の生命は無事でしたが、ワインのビンが割れたりして被害が出ている模様で、とても心配です。

2.《 ティミオプロス訪問》

 両親の代では4haの畑から得られたブドウは全て、ブターリ社というナウサの有名ワイナリーに売っていました。2004年に息子のアポストロスが醸造学校を卒業後に、栽培を引き継いで醸造を始め、徐々に近隣の畑を買っていきながら現在では23haのブドウ畑を持っています。
 北西から南東に34㎞のびるナウサ地区は石灰質土壌の丘陵地で、東側は平野の部分がありますが植わっているのはほぼ桃で、ブドウ畑はほぼ丘の上にあります。地下水脈や小川が地域一帯にあり、ナウサの町の中にはとても大きな滝があります。地区の中はいくつかの丘に分かれており、ドメーヌ・ティミオプロスではそのうちの小さな丘のほぼすべてのブドウ畑を所有しています。ワイナリーはトリロフォスと呼ばれる村にあり、10区画以上もある畑は全て5㎞以内に位置しており、一番標高の高い畑で海抜500mほど。樹齢は大体5~20年、30~50年と分かれており、若い畑からはジューヌ・ヴィーニュとロゼ、古い畑からは、(日本には輸入されていませんが)イィ・ケ・ウラノス(ギリシャ語で大地と空の意)が醸造されます。また2011年と2012年と任意の区画の畑/空のブドウで、亜硫酸ゼロのクシノマヴロ・ナチュールを造っています。2011年はイィ・ケ・ウラノスに近い考え方でクシノマヴロ・ナチュールを醸造し、2012年はジューヌ・ヴィーニュに近い考え方で醸造したそうです。具体的には2012年は若いブドウの割合を増やし、マセレーションを短くして、アポストロスとしては2012年の方がより満足の行く結果が得られました。
ドメーヌ・ティミオプロスでも新しいセラー造りが計画されています。現在のセラーは年間12万本も生産しているとは思えないほど小さなセラーで、大きな醸造機器が所狭しと並んでおり、その隙間に小さなタンクが置かれているという状況です。もし新しいセラーが出来れば広さは3倍になり、現在はワンフロアしかありませんが、更に地下部分ができるので作業もしやすくなり、ボトル詰めを適切なタイミングで行い保管することが出来るようになる、とアポストロスは言います。完成するのは2015年だそうです。




 セラーから歩いて5分のヴラナペトラと呼ばれる畑。植えてまだ8年で、最初の数年間だけ耕作をしたが、株がある程度育った現在は不耕作。キャノピー・フリー。






 ギリシャを訪れた年末年始は、どのワイナリーも季節労働者が皆、国へ帰り、彼らが戻ってきて剪定が始まるまではどこもセラーは静かです。また生産者にとっても家族や友人と好きなように時間を過ごせる、大切な時期でそんなときに訪問を受け入れてもらえ、ただただ感謝です。ギリシャにはレベティカと呼ばれる大衆音楽があり、知り合いが10人以上カフェに集まれば、誰かがブズーキ等の楽器を持ってきて演奏し、水を飲むようなコップでワインを飲みながら、皆で歌います。ドメーヌ・ダラマラスでも友人を何十人も集めてワイナリーで年始のパーティーを開き、何十本も惜しみなくワインを開けて、来てくれた友人に振る舞い、最後はレベティカを歌いパーティーが終わります。
 熟成した良いワインを、少しだけかしこまって飲むときも、「ワインって面白いなあと思いますが、このように楽しむワインも素敵だなあと思った年越しのパーティーでした。
 また、試飲会も、特に生産者が来て開かれるものは、ワイン固有の文化だと思います。一月の最後の週から二月にかけてフランスではモンペリエ、アンジェと、大きな試飲会がいくつもあります。イタリアでは収穫後、大きな町の近くでは毎週末に試飲会がありましたし、すべてに行くのは不可能ですが、毎回沢山の人で賑わっています。そして、試飲会にもよりますが、本当に美味しいワインは、つくづく沢山あるものだなと、試飲会の度に思います。でもそれらが全て輸入できるわけではなく、輸入するからにはたとえ流行が去ったとしても飲まれ続けるような、高品質なものでなければいけないのでしょう。



合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:
1986年生まれ。東京都出身。

《2007年、2009年》
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で
収穫
《2009年秋~2012年2月》
レオン・バラルのもとで生活
《2012年現在》
ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中
《2013年現在》イタリア在住

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