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社員リレー・エッセイ 13 岩井 麻里子(営業部)

「ホームシック」

 大阪から東京にやって来て、早くも1年が経ちました。季節ならではの悩みに苛まれていた悪夢のような3月でした。そうです、お恥ずかしいことに人生初のホームシックを患ったのです。学生の頃から1人暮らしの経験が多い方だと思っていたので、今まで味わったことのない感情に初めは本当に戸惑ってしまいました。花粉の飛散もテンション降下の一因か。けれど今は思います。たまには悩んでみるのもよいことだと。日々の忙しなさにかまけて忘れかけていた、大切なことを思い出したからです。

 シック中、家族との電話や幼少期の回想に時間を費やすなかで、思い出すのは決まっていつも遊びの記憶でした。放っておいても勝手に遊ぶ楽チンな子供だったそうです。特に熱中した遊びが下記のもの。

 光る泥だんご 泥だんごを、布を使って毎日ひたすら磨きます。至難のワザですが成功すれば小さな惑星のように美しく光ります。乾燥(脱水)具合と、光ると信じて諦めない精神が肝で。その賜物か副産物か?実家の私の部屋の奥隅には、ネットに載っている宝石のような見本とは似ても似つかない歪な土塊がいくつも、輝く時を待って眠っています。結局ひとつも、光らなかった…。

 フランシスの家出 幼少期の私的バイブル『ぐりとぐら』に次ぐ大切な絵本である『フランシスの家出』。主人公の真似をして何度も決行した“家のなかでの家出”は、夕食後の楽しみでした。リュックに、漫画やお菓子そして電話の子機を詰めると、家族に別れを告げて家のどこかに身を隠します。退屈を感じて寂しくなれば、内線を使って近況報告。家出中は、誰かが目の前を通っても“何も見えない・聞こえない”フリをするという追加ルールがありました。私の家出が終わるまで電話の子機が使えないので、家族はさぞかし迷惑したでしょう。

 段ボールハウス 少し頭を使えるようになった小学生のときに夢中になったのが、段ボール製の家づくりでした。建築家のつもりで、間取りや壁の補強、色塗りに細心の注意を払います。ガムテープだらけの一戸建てワンルームは、何日もかけてようやく直立してくれました。嬉しくて、家の前でキャンプしよう!と意気揚々と準備する私を母が制止しました。仕方なく飼い犬を招いて庭で一夜を明かしました。紙って、あたたかくて快適だ。どこでも寝られる逞しさは天性のものでした。

 10歳の時、戦う亀/タートルズに憧れて、目隠しでの自転車激走に試み頭蓋骨を折る愚かな失敗を差し引いても、小さな私は理由や結果を気にせず好きなことに夢中で取り組んで楽しんでいました(骨のエッセイはまた今度にします)。懐かしい1コマ1コマを思い出す度に、体が大きくなった今の方が物事に鈍感になっているように感じ始めました。どこにでもある泥や段ボールは、全力で向かう素直さと努力次第で最高に面白いオモチャに変わったのですから。落ち込んでいる場合じゃない。楽しむ工夫をしなければ。春の厄介なホームシックは、やけ酒ではなく自己反省という予想外の形で収束を迎えたのでした。

 私は、大学生の時にアイルランドで飲んだギネスがきっかけでお酒に目覚め、ワインに夢中になりました。ワインは向き合い方によって様々な姿に変化するから、光らなかった泥だんごのようには簡単に諦めがつきません。小さな頃遊びのプロだった私。これからは、日常のありふれた出来事を今まで以上によく見てよく考えて、夢中で工夫を重ねていつの日かワインのプロになれますように。そう自分に喝を入れて、また1年大切に時間を過ごしていこうと思います。ホームシック万歳。

 

<終>          

 

来月のエッセイ担当は、ホームシック経験なんて無いであろう東京生まれ・東京育ちの浅井さんです!


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