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社員リレー・エッセイ ⑨村井 雄希(営業部・仕入部)

「“A Little of Everything is Good”―いろいろ少しずつは良いこと―

 ビル群のようなホップ畑の道を抜け、坂道を超えた先にあるぶどう畑に立つ柱には鳥かごが巻き付けられていた。ぶどうを鳥に食べられる問題はないか、と彼に聞いたときに帰ってきた答えが、“A Little of Everything is Good”だった。

 ぶどうを食べてしまう鳥のように、栽培やワイン作りを阻むものごとは排除すべきだと、つい考えがち。だが彼に言わせれば、「阻害要因」なるものを撤去すると、えてして自然のバランスが崩れがちだという。害になる原因を排除しても、今度は別の害が発生して、追いかけごっこになるから、単純に排除することは有効ではない。ある年に害虫が大量発生したが、その害虫を放っておいたら年を追うごとに減っていき、現在では影響のない範囲まで落ち着いたそうだ。

 つまり“Important thing is to keep the nature going”「大切なことは、自然に自然の働きをさせてあげること」だという。そうすれば自然が自らバランスをとっていく。その話を聞いているうちに、この人のように無理に流れを逆行させるのではなく、全体を俯瞰して自然に身を委ねられる人には、出会うべき人や偶然に恵まれるのだろうと、漠然と感じた。畑を歩きながら聞く彼の話には、実際にそういう出会いと偶然が多いことに気付く。

  ビオディナミ農法との出会いは、畑作業の怪我をきっかけに妻と訪れたインドの地で巡り合った、ニュージーランド人の地質学者ピーター・プロクターを通じてである。プロクター氏は、遺伝子組換種子や農薬への多額の借金に苦しむインドの農民向けに、持続可能農法やビオディナミ農法の普及に力を注いだ。彼はプロクター氏から学んだのち、父から引き継いだジュートシュタイヤーマルクの畑に、その教えを取り入れた。

 畑だけでなく、ワインラベルにも偶然はある。緑色から土色、黄色から橙色へと変わるグラデーションが特徴的なラベルは、ザルツブルグ生まれのベッポ・プリム氏による作品。美術教師で彫刻家、そして画家であるプリム氏の作品が好きだった彼は、「Horizon = 地平線」というテーマで絵を依頼した。その依頼にプリム氏も驚いたという。なぜなら偶然にも、画家本人のライフ・テーマが「地平線」だったからである。仕上がった絵に、彼も画家本人も満足し、作品はラベルに採用された。そして2009年に亡くなったプリム氏にとって、その絵は最後の作品になった。

 この「彼」とは、先月末に来日したセップ・ムスターです。帰国後、セップとの話の節々から、彼が日本で出会った人々は、彼の大切な思い出になっていることを感じました。私自身、セップを通じて今回偶然に出会い、心ある瞬間をともにつくってくださった愛好家、サービス、ソムリエ、シェフ、酒販店、ライター、通訳家、団体運営者、フォワダー、輸送業者、倉庫業者の方々には、日頃の御礼も含めて感謝をお伝えしたいです。そしてこの先、それぞれが少しずつ関わり合うことで、もしかしたら思いもしない嬉しい偶然に出会えるのでは、と楽しみに思えてなりません。“A Little of Everything is Good”とセップ・ムスターがいうように。


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